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がん告知後の生きかたについて

2008/10/15

"がん"は今や最もありふれた病気の一つで、日本人の約半数ががんに罹る状況です。当院でも常時200人以上のがんの入院患者さまが治療を受けています。"なぜ私ががんに?"ではなくて、"私もあなたもがん。互いに支え合い、がんと付き合って残りの人生を有意義に過ごしましょう!"の方が、今の時代に合っているかもしれません。

黒澤明監督の『生きる』という映画を見たことがあるでしょうか? がんで自分の限られた余命を知った主人公が、それまでのやる気のない役人生活から一念発起して、地域住民の念願であった公園計画に奔走。役人として、残りの人生の全精力を捧げて遂に公園を完成させて亡くなる、という感動的な話です。
もし、この主人公が限りある余命を知ることがなかったら一念発起することもなく、それまでと同じ無意味な役人生活を続けて一生を終えていたでしょう。進行がんは治癒困難であることが多いですが、ある程度進行について予想がつき余命の長さが分かる場合も多く、自分自身で残りの人生計画を立ててより良い最後の人生を過ごす好機にもなりうることをこの映画は示しています。

悪い知らせを伝えられた場合の人間共通の心理反応とその時間的な変化を、キュブラー・ロスという米国の精神科医は、名著『死ぬ瞬間』に示しました。これによると、がんの告知後に我々の心は、1.否認⇒2.怒り⇒3.取引⇒4.抑うつ⇒5.受容の5つの段階を典型的な場合に辿るようです。日頃、がんの告知後の患者話を伺いながら、それぞれの患者さまは上記どの段階におられるのか、と考えることがあります。

  • "せっかくこれから老後を楽しもうと思っていたのに、どうして今がんになったのか?"(1あるいは2の否認や怒りの段階)
  • "これから大好きなタバコを止める代わりに、何とかがんが治ってほしい"(3の取引の段階)
  • "早く死んでしまいたい。生きていてもしょうがない"(4の抑うつの段階)
  • "がんになって残りの人生に限りがあると分かり、毎日今を生きていることが有難くて感謝している"(5の受容の段階)

受容の段階にある方は、非常に感性が研ぎ澄まされ、精神的に高い境地に達する方もいるのでしょうか。
患者さまにはそれぞれに異なる生活背景があり、告知後はこれまでの人生や環境について思いをめぐらされ、その時々の感情体験をたどり、人生の意味についての思索などを経験されます。
どういうお考えや思いで今の瞬間を生きておられるのかについて、お話を伺う中で患者さま自らが今後どう生きるのかを模索する作業を援助することが、緩和ケアの重要な役割の一つであると思っています。人生最期の生き方には、やはりその人らしさが現れるといいます。自分をよく知り、自分らしく良く生きることができる人は人生の閉幕も上手にやり遂げるのかもしれませんが、我々凡人にはどこまでそれが可能なのか、努力してできることなのか、私にも分かりません。
アメリカ緩和医療学会の元会長のイラ・バイオック医師は、良い死には次のいくつかの言葉を大切な人に最期の場面までに伝えておくことが何よりも重要だと言います。

  1. 1 .私の過ちを赦してください
  2. 2 .私はあなたの過ちを赦します
  3. 3 .あなたには感謝しています。ありがとうございます
  4. 4 .あなたのことを大切に思っています
  5. 5 .さようなら

これらの言葉を伝えるべき人にきちんと伝えられたら、素晴らしい最期かもしれません。

緩和ケア科医師 関根龍一

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