スポーツ医学とは 20-水中運動について
2010/7/1
現在私は水泳連盟のドクターをしている関係で、いろいろな大会で水泳選手の医療サポートをしています。昨年はマスターズの大会に、そして今年はハワイのジュニアパンパシフィックに同行する予定です。
なぜ水泳関係の仕事に興味をもったかというと、単純に私自身泳ぐのが好きだからです。小学校の頃に水泳を「習って」いた時は決して好きになれませんでしたが、大学に入り仲間と海やプールに遊びに行くようになると水中で動き回ることの気持ちよさに目覚めてしまいました。こういったことから、社会人になり「是非、水泳選手の医療にも関わりたい」と思うようになったのです。
そこで今回は、水中運動について簡単にお話しをさせていただきたいと思います。
水中運動の特徴は何と言っても、「浮力」があるということです。水中にいるとこの浮力のおかげで下半身への体重による負担を減らすことができます。
皆さん学生の頃に教わったと思いますが、水中では沈んでいる物の体積に応じて浮力が加わります。おへその高さまで水につかると体重の約半分、胸までつかると体重の約30%の荷重になります。
こういった特徴からも、スポーツ医学の分野では手術後に膝や足関節に負荷をかけず、それでいて筋力を強化したい場合に水中で運動するということを行っています。例えば関節軟骨の術後など体重を損傷軟骨部にかけたくない場合には、プールで積極的な筋力強化を行ったりします。
もう一つ水中運動の大きな特徴は、「運動強度が自由に調整可能」ということです。水中では腕を速く広げればそれだけ水からの抵抗が大きく、逆にゆっくり広げれば抵抗が少なくなります。こういった特性を活かして各個人の痛みや筋力に応じて運動ができるのです。
トレーニング強度をあげたい場合は早く手足を動かし、なおかつ水の抵抗を上げるために手のひらや足背など体の表面積の大きな部分で水をかくようにすればよいのです。よくスポーツジムのプールで深くスクワットをしながら両手を広げて歩いている方を見かけますね。私自身もこの「水中ウォーキング」を行ったことがありますが、これが見た目以上に疲れるのです。
もちろん水中運動にはこれ以外にもさまざまなメリットがあります。高湿度な環境は喘息の発作を起こしにくくするため、喘息持ちの方の運動に適していますし、また末梢循環不全の方などは温水により末梢循環の改善にもつながります。関節の拘縮(関節が硬くなり、完全には曲がらないあるいは完全には伸び切らない状態)のある方などでは水流の慣性により可動域の改善にも有効です。
このように、水中運動は大変効果がある運動方法なのです。泳がなくても十分効果がありますので、泳げない方や体重が多い方、陸上でのトレーニングではちょっと負担が大きいという方などは、是非一度水中トレーニングをお勧めいたします。なお、亀田クリニック5階のスポーツ医科学センターにおいても水中運動が可能ですので、ご希望の方は是非スポーツ医学科の医師までご相談ください。
ジャパンマスターズ2009にて。
毎年幅広い年代の方が参加しており、年代別世界新記録も多数誕生しています。
スポーツ医学科 大内洋
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