スポーツ医学とは 18-サッカー選手のスポーツ障害 ~下肢~
2010/6/1
サッカーでは足の内側を使ってのインサイドキック、外側を使ってのアウトサイドキック、足の甲を使ってのインステップキックなど、特徴あるキックやパスを行うために特徴的なスポーツ障害が発生します。
インサイドキックは短い距離、正確なパスをする時に足の内側で行うキックですが、このとき足部と股関節は外旋(外にねじれた状態)していて、膝は屈曲し、さらに足は背屈(そった形)で固定されています。このために膝の関節に過剰な外反力(外にひっぱられる力)がかかり、膝の内側側副靱帯を痛めやすいことがわかっています。
アウトサイドキックも同様に短い距離のパスをする際に行うキックですが、逆に下肢は内旋(内にねじれた状態)していて、足は内反(内がえしのこと)し、底屈(つま先が下を向いた状態)しています。このために足関節の内反捻挫(いわゆる通常の内がえし捻挫のこと)や外くるぶしの後ろを走る腓骨筋腱という「すじ」を痛めることが多いです。さらには小・中学生では骨端線(成長に必要な軟骨の部分)損傷や剥離骨折も起こりやすいです。
インステップキックは長い距離、強いパスをする時に足の甲で行うキックですが、このとき足が極端に底屈し、また、蹴る瞬間には股関節の屈曲筋、膝を伸ばす大腿四頭筋に極めて強い張力がかかります。このため、足関節の前後のインピンジメント症候群(関節内の組織がはさまることで痛みを起こす)、さらにはジャンパー膝や大腿四頭筋肉離れ、ハムストリングス肉離れ、など膝を曲げ伸ばしする筋肉や靱帯に障害が発生しやすいです。
全体的に膝の障害が大変多く、膝内側・外側側副靱帯(膝の左右の動揺性を抑える靭帯)、半月板(膝の軟骨のクッション)、前十字靱帯(膝の前方への動揺性を抑える靭帯)の怪我が多いです。これ以外にもお皿の骨の下にある膝蓋靱帯を痛めたり、この靭帯が付着する所の骨をはがしてしまう(オスグッド病)選手が多いです。写真はオスグッド病のはがれた骨が痛く、手術になってしまった選手の術前の写真です。 | ![]() |
筋挫傷も大変多いです。これは筋肉に相手選手の膝や脛が当たってしまうことで筋線維を痛めてしまうもので、特に若年者のサッカーの試合で多いです。シンガード(すね当て)はある程度の筋挫傷や骨挫傷(骨の打撲)予防効果があると言われています。
疲労骨折も練習量が多くなってくるとサッカー選手に発生しやすいです。またサーフェイスの問題(芝、土、コンクリートなど)やトレーニング方法、シューズの選択なども疲労骨折に影響を与えます。サッカー選手の統計では、脛骨(すねの骨)、足根骨(足くびの骨)、中足骨(足の甲の部分の骨)の順に下肢の疲労骨折が多く発生しています。
最後に、足のインピンジメント症候群というものもサッカー選手には多いスポーツ障害です。これは足の捻挫後などにフェイントしようとした際、もしくは片足で地面を蹴ろうとした際、さらにはインステップキックの際などに「ズキン」と痛むものです。原因としては関節の内部で瘢痕組織(例えるならばかさぶたのような組織)が過剰にできてしまい、これが足の関節にはさまることが知られています。こういった症状を予防するためにも事前のメディカルチェックが重要な役割を果たします。足関節のゆるさが発見されたならば固有感覚を改善するための強化訓練を行ったり、予防的なテーピングもしくは装具を使用するなども検討すべきです。
このようにサッカーでは大変多くの特徴的なスポーツ障害が発生することが知られています。当スポーツ医学科では全医師がサッカー選手の治療も専門的に行っておりますので、心配な症状がある選手の皆さまは一度受診してみてください。
スポーツ医学科 大内洋
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