スポーツ医学とは 7-”骨折がなければ大丈夫” は間違い!
2009/11/15
今回はスポーツ医学科の大内が骨折のない怪我についてお話いたします。
皆さまの中には怪我をして医療施設を受診された際に、医師から 「骨折はないので大丈夫そうですね」と言われた方がいらっしゃるかもしれませんね。
私自身にもそのような経験があります。中学生の時に体操でバク転をした際にマットとマットの間に足を挟んでしまい、ひどい捻挫をしたのです。このときは近所の医院にかかったのですが、やはり 「骨折はなさそうだね」と言われ、ゴムの簡易的な固定用バンドが処方されただけで松葉杖さえも出してもらえませんでした。その後は約2カ月近く足を引きずる生活を送りました。そして受傷後3カ月ほど経って「痛みが消えた!」と喜んで砂利道を走ったらあっさり再度捻挫してしまいました。のちに自分で調べてわかったのですが、私の足は外側靭帯が完全に切れていたのです。
他にスポーツ選手に多い怪我として、ふとももに相手選手の膝があたる「ももかん」と呼ばれるものがあります。この怪我も同様で、骨が正常であるという理由から他院で「大丈夫そうですねー」と言われた方が、痛みが取れないため数日してから当科を受診してみると、重症の筋断裂であったということも少なくありません。
このように捻挫をはじめとした靱帯損傷、肉離れをはじめとした筋の損傷は、かなりの頻度で見逃されてしまうという残念な現状があります。
では、どうして見逃されてしまうのでしょうか? その理由として、レントゲンの限界が挙げられます。レントゲンはそもそも骨など密度の高い物質を白くうつす性質があるので、靱帯や筋肉など密度の低い物質はうつりにくいのです。
そこで、当スポーツ医学科で積極的に施行しているのが「超音波検査」です。皆さまにとっては「超音波」というと妊婦さんのお腹の中の胎児を見るのに用いる、というイメージが強いかもしれませんが、実は近年スポーツ医学の分野ではかなり重要な検査になってきているのです。
我々はレントゲンで靱帯や筋の問題がなさそうでも、診察でこれらの怪我が疑われた際にはほぼ全例超音波検査を施行しています。近年販売されている超高性能の超音波装置を用いると、靭帯はもちろん、筋肉の一つ一つの繊維や、場合によっては細い神経までもが描出可能で、前述したような見逃しが一挙になくなりました。もちろん超音波検査で描出できない怪我(「骨挫傷」と呼ばれる骨のあざなど)もありますが、このような疾患を疑った場合、当院ではすぐに筋や靱帯専用の条件での MRI 検査が可能です。一般的には1、2週間待たされることが多い検査ですが、当院では同日もしくは翌日に撮影可能な場合がほとんどです。
これらの検査を行い、どの靱帯や筋がどの程度傷んでしまったかを正しく判断することにより、最も後遺症を残しにくく、なおかつもっとも早期に復帰するための治療法が選択可能となるのです。逆に、これらの検査を行わない(もしくは行えない)ために治療が遅れてしまったり、後遺症が残ってしまうようなことはあってはならない! とスポーツ医学科では考えております。
「たかが捻挫、されど捻挫!」です。骨の問題はないけれども痛みがある、不安定感がある、などお困りの方は是非スポーツ医学科を受診ください。
スポーツ医学科 大内洋
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