スポーツ医学とは 6-早期復帰のための関節鏡手術
2009/11/01
近年手術はどんどん小さな傷で行われるようになり、また、より早期に仕事やスポーツに復帰できる方法が良いと考えられるようになりました。病院を訪れる患者さまが我々医師に対して「小さな傷で手術してください」とおっしゃる場合も少なからずあります。
そこで、今回はスポーツ医学科が専門としている手術で、約5㎜から1cm程度の非常に小さな傷にて行う「関節鏡手術」についてお話しいたします。
1877年に Max Nitze が膀胱鏡を発明してから、膀胱以外の臓器に対しても内視鏡の応用、実用化が着実に進みました。しかし、関節への実用化だけは出遅れていました。それは関節 が骨という大変固い壁で囲まれた空間であり、内視鏡の操作が困難と思われていたということも影響していたようです。1918年に我が国の高木憲次が初めて 膀胱鏡を用いて屍膝関節を観察したのに端を発し、その後、欧米でも1921年以降に関節鏡が研究されたのですが、残念ながら実用化には至りませんでした。
しかし、その後1957年に我が国の渡辺正毅が300例の膝関節の関節鏡視所見を『Atlas of Arthroscopy』という書物にまとめました。これは世界ではじめての関節鏡所見のアトラス(図解書) であり、画期的なことでした。さらに1959年には視野が広く、かつ電球が取り付けられたために関節内を明るく照らすことができる「渡辺式21号関節鏡」 が登場し、いよいよ関節鏡は実用化の道を歩むこととなります。渡辺らは1962年には17歳のバスケットボール選手の膝の半月板損傷の手術に世界で初めて 成功しています。
このように関節鏡手術の歴史を紐解くと、我が国にそのルーツがあるということがわかります。日本人の関節の空間は外国の人と比較して決して広いとは言えず 関節鏡を行いやすい人種ではないのですが、この技術が我が国で発明され、発展したのにはひょっとしたら日本人の手先の器用さが関係しているのかもしれませ ん。
近年では、関節鏡手術は日本をはじめ世界各国でどんどん行われるようになっています。また、膝、肩、肘、足首、股関節とあらゆる部位の関節鏡手術が可能になっています。
我々スポーツ医学科でも、これらすべての関節の関節鏡手術に対応できます。膝でいえば、「前十字靱帯」というスポーツで多い障害や半月板損傷の関節鏡手術 が多いです。また肩では、怪我により肩の脱臼を繰り返してしまう場合や野球に伴った関節の軟骨損傷、さらには肩の筋肉の一種である「腱板損傷」という疾患 などは全て関節鏡にて手術しています。 | ![]() |
スポーツ医学科 大内洋
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