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酸素に対する血管の反応 ~障害を受けたところに酸素が運ばれやすい~

2015/12/15

動脈の中を流れる血液に酸素が多い(動脈血中酸素分圧が高い)場合に、血管は収縮するという性質をもっています。その性質は体の部分によって若干異なりますが、脳、網膜、骨格筋では血管を著明に収縮させます。そして、収縮して血流量が減少しても、血液中に溶け込んでいる酸素は増加しているので、組織の酸素要求量が満たされています。

また、同じ組織でも、健常なところと障害を受けて酸素が少なくなったところでは、酸素による血管の収縮反応は違ってきます(注1)。というのは、酸素による血管収縮は、組織の酸素分圧が上昇した結果であるためであり、低酸素状態あるいは虚血状態の組織では血管拡張機構が働き、血流は保たれるようになるのです。これを応用して、高気圧酸素を呼吸したときに、皮膚表面の酸素測定(経皮的酸素分圧測定法)や血流測定(レーザードップラー法)をすると、その値の変化により障害を受けて低酸素となっている部位の治療効果を判断することができます。


交通事故で足の脛(すね)を骨折して筋肉も大きく損傷した時など、強い炎症が起きて大きく腫れ上がり、硬い筋膜に覆われた部分では内部の圧力が高まって血流が途絶えてしまい、骨折の治療どころか、酸素が行き渡らない部分は腐ってしまい、切断を治療として選択せざるを得なくなってしまうことがあります。これをコンパートメント症候群と言いますが、緊急に筋膜を切開して内部の圧力を開放する処置が行われ、血管損傷を伴う場合は血管再建を試みることになります。しかし組織の腫れがなかなか引かず、障害をうけた組織へ酸素が供給されないことがあります。

そのような症例に受傷早期から高気圧酸素療法を行いますと、浮腫軽減は、末梢血管の収縮効果によるだけではなく、酸素代謝の改善と共に血管内皮細胞の障害が抑えられて、浮腫が改善してきます。浮腫が改善してくると障害組織内の圧が下がって、末梢の微細な循環が改善してきます。血管収縮があっても高気圧酸素下では血液に溶け込んでいる酸素の増加があるため、障害組織へ必要な酸素が供給されて修復されやすくなるのです。しかしながら、血管に頼らず酸素を拡散により組織へ供給するには限界があり、血管の損傷が大きい場合は、高気圧酸素療法のみでは酸素の供給は間に合わないため、血管再建の見極めは重要です。

コンパートメント症候群では、高気圧酸素のもう一つの効果として虚血再灌流障害の抑制があります。これは以前、減圧障害の重症化に関わる虚血再灌流障害という病態を高気圧酸素が改善させる効果としてご紹介しております。

四肢の骨折で傷口が開いている場合(開放骨折)は感染を起こすため、デブリドマンといって壊死となった部分を取り除かなければなりませんが、高気圧酸素治療を継続して行うと、改善が望める部分とそうでない部分の境がはっきりしてくるため、デブリドマンすべき部分を的確に見分けることができるようになります。


動脈血中酸素分圧の上昇により血管収縮が健常組織で起きて、障害された組織で血流が保たれる傾向は脳組織でもみられ、脳障害に対する高気圧酸素療法の効果が期待されますが、治療圧力や治療時間などの条件を検討する必要があるようです。

高分圧の酸素により細胞を障害する活性酸素がでてきますが、それを消去する酵素が産生されるようになり、そのバランスにより活性酸素の毒性を抑え、その一方でNOラジカルによる血管拡張を促進し、血流が保たれて脳組織の酸素分圧が上昇すると考えられています(注2)。

重症脳障害において脳組織酸素分圧をモニタリングした検討では、1.5気圧の酸素を60分使うと、治療後6時間は脳血流が上昇したままで脳組織の酸素分圧も上昇したままと報告されており(注3)、参考になります。

【参考文献】
(注1)Hammarlund CE: The physiologic effects of hyperbaric oxygenation. In Hyperbaric Medicine Practice. 3rd ed. Kindwall EP and Whelan HT eds. Best Publishing Company, Flagstaff, 2008, pp41-70.
(注2)Demchenko IT, Oury TD, Crapo JD, Piantadosi CA.: Regulation of the brain's vascular responses to oxygen. Circ Res. 2002;91:1031-7.
(注3)Rockswold SB, et al.: A prospective, randomized clinical trial to compare the effect of hyperbaric to normobaric hyperoxia on cerebral metabolism, intracranial pressure, and oxygen toxicity in severe traumatic brain injury. J Neurosurg. 2010;112:1080-94.
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救命救急科・高気圧酸素治療室 鈴木 信哉

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